2006年5月 9日 火曜日
言わずと知れた、宇多田ヒカルの旦那である紀里谷氏の初監督作品。実は映画館でも観たのですが、今回改めてDVDを購入したので今頃のレビューです。日本が帝国主義のまま侵略戦争を続けているというパラレルワールド設定に、スチームパンク、レトロフューチャー、ゴシックなどの要素が取り込まれ、独自スタイルを確立しています。
■映像
もともと写真家であり、宇多田ヒカルの凝ったPVなどでも知られている紀里谷監督だけあって、映像美はすばらしいものが有ります。宇多田のPVでもあったように、人や建物を真正面から撮影する古典絵画のようなアングル表現やCGならではの高速の引きが独特。しかし、音楽PVの感覚ではちょうど良かったものが、映画になると映像表現・つながりに違和感を感じてしまう箇所が有りました(第7管区をモノトーンで表現する必要が有ったのか。ロボットに侵略されるシーンのアニメ的表現が唐突すぎるなど)。色調もCG多様のため、若干きついです。
なお、L-ZONEやGADGETなどのインタラクティブ・ムービーで知られる日本CGアートの大御所、庄野晴彦氏がCGアドバイザーとして参加しているのには注目です。主な出版元だったシナジー幾何学の倒産以降、あまり活動がみられなくなってしまった同氏ですが、本作のレトロフューチャーな機関車などは、まさに氏の世界観の真骨頂。大滝秀治なんか、リアルにGADGETに出てきそう。
■スタッフ・キャスト
監督・脚本・撮影・編集: 紀里谷和明 脚本: 佐藤大/菅正太郎 音楽: 鷺巣詩郎 出演: 伊勢谷友介/麻生久美子/寺尾聰/樋口可南子/宮迫博之/佐田真由美/要潤/西島秀俊/及川光博/唐沢寿明/小日向文世/大滝秀治/寺島進/三橋達也
豪華です。キャストの魅力に支えられている映画といっても過言ではないでしょう。特に、寺尾聰、唐沢寿明、寺島進、三橋達也らが重みの有る演技で重厚感を出しています。あとは、珍しいところで元フライングキッズの浜崎貴司が大滝秀治の側近として出演。個人的には、伊勢谷友介氏はまだ主役には早かったように思いますが、戸惑いながら成長する青年を表現するには、多少の不安定さがあって正しいキャスティングなのかも知れません。
■シナリオ
設定は面白いと思いますが、全体の流れは悪く、間延びしているように感じました。編集バランスのせいかな? なお、古いアニメ原作の実写映画かということで、「デビルマン」と比較されることが多いけど、デビルマンの方が映像/脚本とも低レベルです。勝負にならない。
■総評
年代によって賛否分かれていて、若い世代に比較的受け入れられているのが興味深いです。おそらく、大人の世代が全体を観るのに対し、若い世代は部分に注視するという差かと思います。公開当時、オフィシャルサイトのBBSも世代間の議論でだいぶ荒れていました。
古い世代は原作とどうしても比較してしまうし、映像表現が多様で統一感がないように感じる。また、全体を観れば起承転結のバランスの悪さは否めないので、評価を下げてしまう。しかし、若い世代は割とユニットごとの細部へ目がいくので、そういう意味では映像のオリジナリティやメッセージ性があり、評価しやすい。いずれにせよ、この映画は原作の再現ではなく、原作をリスペクトした上でのリジェネレーション(ex.猿の惑星)と考えた方が受け入れやすいでしょう。
最初に観たときは、後から付け足されたようなエンディングの浮ついた反戦メッセージが、後味を悪くしておりマイナスに感じましたが、改めて観るとそれほど違和感はなく感じました。「生きる、存在するということは、それだけで誰かを傷つけてしまう。だから、お互いの存在をあるがまま受け入れることが必要なんだ。」というメッセージは、誰でも身近に感じられるもので、映画自体のスケール感の割に個人レベルの語り口になっていて好感が持てました。
周囲のサポート体制が厚かったんだと想像されますが、それでも初監督作品でこのオリジナリティとクオリティを実現できたのはすばらしい。6億円の予算でこの内容・スケール感を実現できたのは、音楽PV制作でCGに精通していたベースがあったからこそ。監督の自己満足映画だという悪評も有りますが、逆にこれだけの独自性を持っているのは評価すべき。紀里谷の世界をすべて出し切ってしまった感があるので、次回作からが本当の勝負ですね。
星4つ[★★★★☆]
・CASSHERN 公式サイト
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俺は古い世代だな。
映像や演技は素敵だったけどストーリーが掴めない。
もっと流れるように引き込んで欲しかったなぁ。
芯がぶれてるような、何を伝えたいのか分からなかった。
あ、俺の理解力が足りないのか・・・
ランキングサイト見てびっくりしました。
結構な数のPVあるのね。
これからも頑張ってね~
ストーリーで訴えるというよりは、映像表現の実験や世界の構築、それ自体が目的に見えるね。長いミュージックPVといった感じ。物語を収束させるために、テーマやメッセージは置いているものの、確かにストーリー全体を通じてメッセージを訴えようとする作品ではない様子。それでも、この監督はニュータイプだと思うので、個人的には今後に期待してます。
あと、ランキングよろしく♪